【マリオ64 RTA】2021年まとめ

トピック0枚RTA, 120枚RTA, 16枚RTA, 1枚RTA, 70枚RTA, イベント, 世界記録, 目隠し, 賞金

覚書の意味も込めて、2021年にマリオ64RTAコミュニティで起こった主な出来事を本記事にまとめる。

2020年まとめはこちら / 2019年まとめはこちら

【世界記録面】どのカテゴリも熱い戦いがあった

2020年まとめ記事で紹介した通り、2020年は『大きいタイムの壁』が3つも破られた。しかし、その大快挙で止まることなく、2021年も熱い世界記録争いが繰り広げられた。

その結果は以下の表の通りとなっている。(タイムはspeedrun.comより)

一体どんな争いがあったのか……、今回も各メインカテゴリを軽く振り返っていこう。

カテゴリ 01/01時点 12/31時点
0枚RTA 06:32.15 by Dowsky氏 06:29.95 by KANNO氏
1枚RTA 07:11.93 by Dowsky氏 07:07.32 by KANNO氏
16枚RTA 14:59.33 by アッキー氏 14:48.58 by GreenSuigi氏
70枚RTA 46:59 by Dwhatever氏 46:58 by Weegee氏
120枚RTA 1:38:28 by Simply氏 1:37:53 by Liam氏

 

★ 0枚RTA

2021年の0枚RTAは、難しい最適化を取り入れていった末についに6分20秒の大台に乗ったのがとても印象的だった。

0枚RTAは、過去に以下の2記事で紹介しているが、

2021年はどんな感じだったのかを今一度振り返ってみよう。

2020年はDowsky氏の『6分32秒15』という世界記録で終わりを迎えた。2020年9月に達成された記録で、Dowsky氏とKANNO氏の更新合戦の末に行きついたものだ。

この後動きがあったのが2021年1月27日。KANNO氏によって『6分31秒52』に世界記録が塗り替えられる。これは『2021年の1ヵ月目で4つの快挙が成されている件 ~0枚・120枚WRと120枚個人理論値の更新~』で紹介した通りである。

Dowsky氏の旧記録もそうだったが、この時期の0枚RTAにおいては、『ほのおのうみのクッパでUltimateルートを狙い、てんくうのたたかい!でまなもサイクルに乗ってサイドンを決める』というのが標準だった。

――しかし、2021年に色々あった結果、この標準がもっとハイレベルになってしまったのだ。

ハイレベルになってしまった原因は、当時16枚RTAの世界記録争いが激化していたことにあるだろう。

後述の16枚RTAセクションで紹介しているが、2021年の前期はとにかく16枚RTAの世界記録狙いが熱かった。その結果、短距離カテゴリ全てに共通するクッパステージ(赤コイン無し)のRTAルートの最適化が進んだのである。

特に最適化が進んだのがラストクッパステージである『てんくうのたたかい!』だ。

以前までの最上位の短距離プレイヤーは、このステージでは、まなもサイクルに乗ってサイドンを決めるのが標準だった。それは先で紹介したKANNO氏の『6分32秒15』を見れば分かると思う。

しかし、RTA向けの最適化が2つあり、RTAの標準がさらに回転リフト2周期分(2.6秒程度)速くなったのだ。

まず最初に最適化されたのは『サイドン後のアプローチ』である。

この最適化のきっかけは、2020年5月にXiah氏が『RTA向けの最後1周期速いアプローチ』を投稿したことにあるだろう。

氏は本ステージのワンスターに取り組んだ過去があり、その時に使っていたアプローチをRTAルートに組み込んだのがこの投稿となる。

この投稿を参考に、この後、本アプローチはSlipperynip氏らが16枚RTAでオプションとして取り入れるようになった。Slipperynip氏が2021年2月23日に達成した『15分00秒』にて、本アプローチを使っていることが分かると思う。

続いて2つ目の最適化は『TASLJ(フリーザー)の導入』である。

今まではオプションとして劣化TASLJを使っていたが、これは速くなるというものではなく、まなもサイクルにより安定して乗れるようにするものだった。一方でTASLJは、まなもサイクルと比べ1周期速いサイクルに乗ることができる。

この最適化のきっかけは、2021年4月頃に、Slipperynip氏が更なる高みを目指して本ステージのワンスターに取り組んでいたことにあるだろう。

もちろんワンスターではTASLJが必須だ。2021年4月15日、氏はTASLJを用いて、自身が持っていたワンスター記録を更新

それを追うように、3日後にKANNO氏が同じルートでSlipperynip氏のワンスター記録を破った。

この時に田中氏やKANNO氏によって独自のTASLJの安定法が編み出され、その結果、RTAでもTASLJが導入されるようになってしまったのである。

以上から、短距離カテゴリでは、TASLJがほぼ標準化し、サイドン後の速いアプローチがオプション化することとなった。

そして、当時KANNO氏は16枚RTAに燃えていたので、それら最適化を習得。

それを1枚RTAや0枚RTAにも活かし、2021年8月6日、氏は『6分29秒95』を叩き出してついに人類初の6分30秒切りを成したのだ。

ここまでが2021年に0枚RTAで起こった内容となっており、以降は特に動きはみられることなく、2021年は終わりを迎えた。

今後どのような人間離れ技が登場するのか……、2022年にも期待しよう。

 

★ 1枚RTA

0枚RTAのついでに存在すると思われがちなカテゴリ『1枚RTA』だが、2021年は年末に面白い戦いが繰り広げられた。

最適化などに関しては先で紹介した0枚RTAと同じなので割愛するが、それ以外の部分をこれから紹介する。

まず、2020年だが、Dowsky氏の『7分11秒93』という世界記録で終わりを迎えた。これも0枚RTAと同様、2020年9月に達成された記録で、Dowsky氏とKANNO氏の更新合戦の末に行きついたものだ。

この後しばらくの間更新されることなく、時は流れて2021年7月。

16枚RTAで世界記録を更新したKANNO氏が、16枚RTAの経験を経てさらに強くなって1枚RTAに帰ってくる。

そして、2021年7月7日。氏は『7分10秒43』を叩き出し、8ヵ月ぶりに世界記録が塗り替わることとなった。ここまでは今まで通りKANNO氏の独壇場といった感じだったのだが……。

2021年の11月末に面白いことが起こる――なんと、Weegee氏が1枚RTAに参戦したのである。

16枚RTAの世界記録狙いがまだ熱い最中、1枚RTAにも参戦した氏。

氏は1枚RTAを習得した後、11月30日に『7分30秒』を出す。もちろんそれで止まることはなく、12月6日には『7分22秒14』→『7分19秒30』と自己ベストを2回更新。

さらに翌日の12月7日にも『7分16秒03』→『7分15秒43』と自己ベストを2回更新し、いよいよKANNO氏やDowsky氏の背中が見えるタイムに。

一方のKANNO氏はというと、70枚RTAに手を出していたり、『GSA 16 Star Live Time Attack』に出場する兼ね合いで16枚RTAをやっていたりと、1枚RTAには手を出す雰囲気ではなかった。

しかし、Weegee氏のこの追い上げでモチベーションが上がったのか、1枚RTAに再着手し始める――つまり、KANNO氏とWeegee氏による世界記録争いが密かに始まったのである。

そして、2021年12月8日。世界記録更新を成したのがKANNO氏だ。記録は『7分07秒32』で前回と比べ3秒程度の更新となる。

ただ、ここで終わることはなく12月10日。Weegee氏が『7分08秒96』を叩き出し、世界2位に登り詰めると同時に、KANNO氏の記録まであと1秒のところまでやってくる。

このWeegee氏の記録の面白い点は『SBLJのふっ飛びの有無で明暗が分かれた点』だ。

記録動画の2分53秒あたりからを見れば分かるが、SBLJ時にふっ飛んでウォーターランドに入る技が決まらず、そこで大きくロスしている。一方でKANNO氏の記録はその技を決めている。

速度が関わる兼ね合いで運ゲーとも言えるような技なのだが、もしWeegee氏がその技を決めていれば……。そんな記録だったのである。

▼ Weegee氏の記録より。SBLJを決め扉を抜けたもののふっ飛べていない。
2021year-summary_SBLJ

この記録以降も戦いは軽く続いたが、世界記録は塗り替えられることはなく鎮静化し、2021年は終わりを迎えた。

これが2021年にあった1枚RTAでの面白い戦いの内容となる。

ちなみに、上記の戦いの時期にSBLJ時に幅跳びをキャンセルしてふっ飛ぶことでタイム短縮を狙う技も試されたようなので、2022年はこういった技の導入にも期待したい。

 

★ 16枚RTA

2021年の16枚RTAは、15分を切るのが普通になり、さらに10秒速い『14分50秒切り争い』があった。具体的にどんな感じだったのかをこれから紹介しよう。

アッキー氏が人類初の14分台を手にしたのが2020年5月10日。

そこから2021年11月11日のGreenSuigi氏の世界記録更新(14分55秒13)までの間で、世界記録は2回更新されており、

  • Slipperynip氏がようやく15分切り(≒世界記録)に王手をかけたり
  • KANNO氏が『14分58秒09』を叩き出し、ついにアッキー氏の記録を破ったり
  • Slipperynip氏が渇望していた世界記録を達成したり
  • 最上位プレイヤー達の争いの中、GreenSuigi氏が自身初の世界記録を達成したり

と、なかなかに熱い戦いが繰り広げられた。詳細は『前代未聞! たった4日で120枚RTA・16枚RTA・70枚RTAの世界記録が更新される!』で紹介しているので、そちらを読んでほしい。

この後、12月31日までの間は、GreenSuigi氏とWeegee氏を中心に14分50秒切り争いが勃発。

まず先手を打ったのはGreenSuigi氏で、11月24日に自身の世界記録を約1秒短縮し『14分54秒16』を達成した。

このままGreenSuigi氏が14分50秒切りを達成するかと思われたのだが……。その1週間後の12月1日にWeegee氏が『14分53秒』を叩き出し世界記録を更新。

いよいよ、誰が最初に14分50秒切りを達成するのかが分からない状況となる。そしてそのまま2022年を迎えようとした矢先――。

2021年12月31日。GreenSuigi氏が『14分48秒58』を達成し、ついに人類初の14分50秒切りが成されたのだ。

これが2021年に起こった14分50秒切り争いの結末となっている。

ちなみに、2021年の16枚RTAは昨年よりもかなり進化している。その点は【記録面】のセクションで紹介することにしよう。

 

★ 70枚RTA

2021年の70枚RTAは『Dwhatever氏の独擅場がついに終わりを迎えた』という言葉に尽きるだろう。

70枚RTAに関しても、『前代未聞! たった4日で120枚RTA・16枚RTA・70枚RTAの世界記録が更新される!』で紹介しているので詳細は割愛するが、ざっくりとした流れをもう一度振り返ってみよう。

Dwhatever氏が人類初の47分切りを達成したのは2020年6月12日。

最上位プレイヤーでも47分30秒を切るのが関の山だった時期にこんな偉業を成し遂げたことから、「今後数年間は抜かれないのではないか」とまで言われていた。※この時の世界2位の記録は『47分23秒』で、氏の記録とは24秒も差があった。

この後、Dwhatever氏は70枚RTAを一旦辞め、少し時は流れ2020年11月頃にWeegee氏やTaggo氏らが70枚RTAに着手し始める。

Weegee氏は短距離カテゴリを嗜んでいることから、バッタンキングのとりでや地下ステージなどの攻略が世界トップクラスに速いプレイヤーだ。

そのこともあり、2020年11月の段階から、70枚RTAの前半戦終了(地下ステージ終了)までで46分台ペースを出していた。

「このままやり続ければ46分台を出せるのではないか」「Dwhatever氏の独壇場が終わるのではないか」とまで言われていたのだが、残念ながらそうはならずに『47分22秒』という自己ベスト更新までで姿を消す。

一方で、元70枚RTA王者のTaggo氏は2020年11月11日に『47分18秒』という待望の自己ベスト更新を成し、2位のPuncayshun氏の記録を抜いた。しかし、その後は70枚RTAは続けることなく別カテゴリに着手することになる。

その後特に大きな変化はなく月日が経ち、2021年10月頃。惜しくも世界記録に一歩届かなかったWeegee氏が70枚RTAに復帰する。

この時期の氏はほぼ毎日のように70枚RTAを通しており、良いペースを連発していたことから、誰が見ても「絶好調」と言えるほどの好調具合だった。

その好調具合はしばらく続き、まず10月16日に『47分16秒』を出し自己ベストを更新。その後も『47分06秒』→『47分01秒』→『46分59秒71』と少しずつ更新していき……。

そして、2021年11月11日。氏はついに『46分58秒』という記録を打ち立て、Dwhatever氏の記録を破ったのだ。

以上が過去の記事で紹介した内容となっているが、実はこの後も面白い展開があった。

この後、世界記録を出したWeegee氏は一旦70枚RTAを辞めたのだが、氏と入れ違いの形でとあるひとりのプレイヤーが存在感を強く表し始めた。

そのプレイヤーとは――Benji氏である。

氏は2016年後期頃からマリオ64RTAを始めたプレイヤーで、2017年5月時点での自己ベストは『1時間01分59秒』だった。そこから少しずつ自己ベストを更新し、2021年1月25日には自身初の48分切りを達成(47分58秒)。

その後も止まることなく、Weegee氏が世界記録を塗り替えた11月頃には既に『47分13秒』という自己ベストを持っていた。

そのこともあって、実はWeegee氏が世界記録を狙っている頃には、世界記録を破れる有力候補として氏の名前が挙がっていたのだ。

そんな氏だが、Weegee氏が一旦辞めた後も世界記録を狙って高頻度で70枚RTAを通し、12月18日には『47分07秒』という自己ベストを達成。

実力も申し分ないことから、「史上3人目の47分切り達成者になれるかどうか」に注目が集まり続け、そのまま2021年は終了する運びとなった。

ということで、2022年も70枚RTAの世界記録争いは細々と続いている状況だ。

 

★ 120枚RTA

2021年の120枚RTAは『熱い記録更新合戦があって、ついに1時間38分の壁を破った』というタイトルが相応しいだろう。

120枚RTAに関しても、

で紹介しているので詳細は割愛するが、ざっくりとした流れをもう一度振り返ってみよう。

まず2021年1月から。この時期は2020年5月にSimply氏が達成した『1時間38分28秒』が大きい壁として立ちはだかっており、「2021年は世界記録が変わらないのではないか」とまで囁かれていた。

しかし、2021年に入り120枚RTAが少しずつ熱し始め、2021年1月29日。cheese氏がこの壁を破り、『1時間38分25秒』という記録を打ち立てたのだ。

たった3秒の更新だと感じる人もいるかもしれないが、Simply氏の記録が本当に速い記録だったことから、意味のある更新だったのは言うまでもないだろう。

ただ、この『1時間38分25秒』というタイムは、当時の最上位プレイヤーであれば噛み合えば破れるタイムだった。

そのことから、この後、世界記録争いがさらに過熱し――Puncayshun氏、Simply氏、バトラ氏らが入れ替わるように世界記録を狙う、そんな1日たりとも目が離せない日々が2ヵ月も続いたのである。

そして、2021年4月9日。世界記録争奪戦を制する者が現れた――バトラ氏だ。

氏は2020年頃にRTAに復帰。そこから世界記録を目指して日々練習し、2020年後期あたりから世界記録狙いの通しを始めた。

そこから色々あって2021年4月になり、ようやく練習の成果が実り『1時間38分21秒』という世界記録を手にしたのだ。その本人の心の奥底からの喜びは、記録動画の最後を見れば誰もが分かるだろう。

この記録が達成された当時は、日本人が久しぶりに120枚RTAの世界記録を手にしたことから、RTAコミュニティだけでなくSNSなどでも大いに盛り上がった。

詳しくは『バトラ氏が悲願の世界記録更新! 執念とも言うべきその勝因を説く!』で語っているので、こちらを読んでほしい。

この後、バトラ氏は姿を消すことになる。他の最上位プレイヤー達はというと、『1時間38分21秒』というタイムはまだ破れる範囲にあったことから、世界記録狙いを続行。

噛み合えば『1時間38分10秒台』は確実に出せるとは分かっていたものの……、しかし、それとは裏腹に誰も更新できない日々が続く。

「バトラ氏の世界記録を最後に2021年は終わってしまうのではないか」。

そんな雰囲気が漂い始める中、2021年8月。その雰囲気を壊すかのようにとあるプレイヤーが復活したのだ――元120枚RTA王者のLiam氏である。

氏は、最初はブランクがあり1時間50分ほどのタイムを出していたが、以前と変わらずに日々120枚RTAに取り組み、そして10月頃には世界記録ペースを連発するようになっていた。

そして、2021年10月9日。『1時間38分13秒』を叩き出し、ついにバトラ氏の世界記録を破ることになる。

しかし、このタイムに本人は納得がいっていない様子だった。それもそのはず、通しの中で『1時間37分台』が何度も見えていたからだ。

ということで、氏はこの記録でさらにモチベーションを上がり、もう1ヵ月通し続け……。

そして、11月7日。『1時間37分53秒』を出し、人類初の1時間38分切りを達成したのである。

2021年頭では「厳しいかもしれない」と言われていた1時間38分切りを達成したことから、コミュニティで大きく盛り上がったのは言うまでもないだろう。

その後、氏は1時間37分30秒前後を目指し始め、月日は経って2021年は終わりを迎えた。

以上をまとめると、『2021年前期は熱い戦いがあり、後期は人類初の1時間38分切りが成された』という感じになるのではないだろうか。

今後も世界記録争いは続くと思うので、注目していきたい。

 

【記録面】2021年も全体的に実力の向上が見られた

先のセクションでは、世界記録を中心に色々話した。本セクションでは、全体的な記録に関する話をする。

特に進化を感じられたのは16枚RTAと120枚RTAだろうか。

 

★ 16枚RTA

2021年の16枚RTAを一言で表すならば「いつの間にか14分台が当たり前になっていた」という言葉が適切だろう。

2021年は、短距離プレイヤー達の実力が全体的に上がったことから、猶予1, 2フレームが要求されるような難しいルートが標準となった。

また、2021年10月に『Chip Clip』という新たな壁抜けが見つかり、それも16枚RTAに大きく影響した。※詳細は【ルート実用面】参照。

結果として、14分台が割と当たり前になり、イベントなどでもぽんぽんと出るタイムになってしまったのである。

16枚RTAで標準化された具体的な例としては以下が挙げられる。(2021年に出た案というわけではないので注意。)

以上から、2020年末には1名しかいなかった15分切り達成者が、2021年末にはなんと6名にまで増えている。

また、2021年末の16枚RTAの100位は『16分07秒』であり、15分台を出さないと100位以内に入れない時代が差し迫っているのも面白いところだ。

 

★ 120枚RTA

120枚RTAも16枚RTAと同様に、プレイヤー達の実力が全体的に上がったことや、より速いアプローチなどが標準になったことから、1時間39分切り&1時間40分切り達成者が増えた。

2020年末と2021年末を比較したのが以下で、

  • 1時間40分切り達成者: 9名 → 12名
  • 1時間39分切り達成者: 3名 → 7名

最上位の壁とされる1時間40分切り達成者が3名も増えていることが分かるだろう。また、他のプレイヤー達も自己ベストを伸ばしており、2021年でまた一歩進化したと感じられた。

この進化の要因のひとつに『2階以降RTA』があると私は考えている。

120枚RTAは序盤にリセットポイントが多いため、なかなか後半(2階以降)にたどり着くことはできない。そのため、今までの120枚RTAでは、全体的に後半の練度が低くミスが多く見られた。

その欠点を補うべく、120枚RTAの練習方法のひとつとして2階以降RTAが重要視され始めるようになったのだ。

具体的には、2階カギ扉タッチから大スタータッチ(ゲームクリア)までのタイムを競う練習法だ。上位プレイヤー達が時々2階以降RTAを並走していたので、ご存じの人も多いかもしれない。

世界記録が煮詰まってきた2020年頃から重視され始めたが、実は一部のプレイヤー(特に日本人プレイヤー)は以前から採用していたものとなっている。

2021年はこの練習法が普及したこともあって、その効果としてプレイヤー全体の自己ベストの向上が見られたのではないだろうか。

ということで、120枚RTAは練習法も重要な要素なので、今後どのような練習法が出てくるのかにも注目したいところだ。

 

【ワンスター面】2021年も更新が続く&記録更新に賞金!?

ワンスターとは、個別スターを回収するまでのタイムを競うRTAである(詳細はこちら)。

2019年や2020年のまとめでは取り上げなかったが、表でRTAの世界記録が争われている中、その裏ではワンスター記録が更新され続けている。

2021年は「Shake氏の年」と言っても過言ではないぐらいにはShake氏が数多くのワンスター記録を更新していた。

一体どんな記録更新があったのか……。全てを挙げるとキリがないので、新ルートを採用したワンスター記録の代表例を5つ紹介しよう。

 

1. チックタックロック つきだしスター

2021年3月10日。Shake氏によってTTCつきだしスターの世界記録が『14.78秒』に更新された(当時の動画は以下)。

その記録では、今までと違い、仕掛けを動かしながらスターを回収する新ルートが採用されていたのだ。

本スターは以前まで「人間では仕掛けを止めて回収するほうがさすがに速いだろう」と言われていた。

しかし、2020年4月5日にcircumark氏が『人間向けの仕掛け動かしルート』を考案したことで、仕掛け動かしでもワンスター記録を更新できることが判明。それを1年弱越しにShake氏が決めた形となっている。

一応補足しておくと、Shake氏は2021年3月5日の段階でこの新ルートを決めており、仕掛けを止める旧ルートと並ぶ世界記録タイを出していた。単独世界記録を手にしたのが5日後の3月10日となっている。

上記世界記録を手にした氏は、この後、終盤の改良案を思いつき、それを取り入れることに成功。その結果、さらに0.4秒速い『14.31秒』が現在の世界記録となっている。

 

2. かいぞくのいりえ 赤コインスター

2021年5月3日。Shake氏によってJRB赤コインスターの世界記録が『51.33秒』に更新された(当時の動画は以下)。

その記録では、今までとは異なる赤コインの回収順を採用しており、それによってなんと1.8秒も短縮していたのだ。

今までの赤コイン回収順(旧世界記録)は、貝の赤コイン達から回収した後にポールの赤コインを回収するルートだった。RTAプレイヤー的には『100枚+赤コインスターの回収順』と言うほうが分かりやすいかもしれない。

しかし、2018年9月19日にcircumark氏によって、ポールの赤コインを回収した後に貝の赤コイン達を回収したほうがルート的に速いことが判明した。(案の動画はこちら)

「この案を通すことができれば容易に世界記録を出すことができる」。

そのことから、当時チャレンジャーが現れたものの、誰も達成することなく時は進んでいき……。そして2021年5月3日にShake氏が通すことに成功したのである。

氏はこの後、本スターに再チャレンジし、2021年10月14日にはさらに2.1秒ほど速い『49.24秒』を手にしている。

 

3. さむいさむいマウンテン スライダースター

2021年6月1日。Shake氏によってCCMスライダースターの世界記録が『24.67秒』に更新された(当時の動画は以下)。

その記録で使われていたルートとは……、そう、TASルートである。

動画を見れば分かるが、TASルートとは、スライダー序盤で左側の壁を蹴ってすり抜け、スライダー全てをカットするルートだ。

今まではRTAルートを突き詰めた『25.00秒』が世界記録だったが、それと比べて、0.3秒程度も速くなっている。

このルートの起源は2014年1月にKyman氏がTASで見つけたことにある(当時の動画)。

発見後、メーゼ氏などのプレイヤーがすぐに試したり、その後もたびたびチャレンジャーが現れたりしたが、とある問題があり誰ひとりとしてTASルートで世界記録を出すことができなかった。

その問題とは――幅跳びの部分が難しすぎる問題である。

TASルートでは、スライダー入場後に左に向いてから幅跳びを出すわけだが、普通にやると左に曲がり切れずにスライダーを滑り始めてしまったり、幅跳び後に壁に当たってしまったり、壁キックまでいけてもすり抜け部分まで届かなかったりするのだ。

ということで、この7年の間、ノンストップで決めれば世界記録が出せると分かっていたものの誰も決めることができなかったTASルート。

Shake氏が決めることができた要因は、動画を見れば分かる通り、ポーズバッファーを使ったことにあるだろう。

ポーズバッファーとは、ポーズ中にスティック入力を変えてからポーズを解除することで、疑似的に1フレームで任意の方向へスティックを倒すことができるテクニックだ。

氏はこのテクニックを用いることで、幅跳びの部分をなんとか解決し、世界記録を更新するに至ったわけだ。

しかし、もちろん、ポーズの時間もタイムに含まれているので、ポーズ無しで決めることができれば更にタイム短縮できるのは言うまでもないだろう。

すごいことに、執筆時点では、Shake氏がポーズ無しを決めてさらに世界記録を更新している。これは2022年まとめの時にでも紹介できればと考えている。

 

4. レインボークルーズ 虹船スター

2021年10月23日。saksdal氏によってRR虹船スターの世界記録が『16.98秒』に更新された(当時の動画は以下)。

0.3秒ほど更新された記録では、今までとは違い、『ジュゲムを踏まないジュゲムルート』が採用されていたのである。

RTAでも使っている通り、本スターはジュゲムを踏み台にして坂に登る『ジュゲムルート』を用いて回収するのが一般的だ。だが、かなりシビアではあるものの、ジュゲムを踏まなくても坂に登ることができる。

このジュゲムを踏まない方法は、実は2010年のTASのフリーランで披露されたことがある。

なので、おそらく過去に人間でできるかどうか試されたことがあると思うが、シビアすぎるがゆえに無理だったのだろう。

しかし、長い年月を経て2021年になり、練習ツールの発達やプレイヤー達の腕前が上がったことからこのルートが人力でできるようになったと考えられる。

今まではずっとジュゲムを踏む方法で開拓が進んできたが、ここに来てジュゲムを踏まない方法の登場――これも2021年を代表するワンスター記録なのではないだろうか。

ちなみに、執筆時点では、このルートとは異なる全く新しいルートが誕生しており、それによって世界記録が更新されている。この話は2022年まとめで紹介することにしよう。

 

5. あっちっちさばく イワンテスター

2021年12月12日。Shake氏によってSSLイワンテスターの世界記録が『45.01秒』に更新された(当時の動画は以下)。

この記録では、なんと『ボムピラ』を使ったTASルートが採用されていたのである。

RTA的には、本スターはピラミッドの下の入口から回収するのが一般的だ。

2015年まではTASにおいてもそれが一番速いとされていたのだが……。

2015年2月21日、4232Nis氏によってボムピラを使った新TASルートが考案され、さらに速くなることが判明したのだ(当時の動画はこちら)。

ただ、この新TASルートは、ピラミッドに入るまでが速いからこそ(ボムピラが速いからこそ)最終的に速いタイムが出るものだった。そのため、RTA向けのやり方では速くならないことは以前から分かっていた。

以上から、人間がこの新TASルートで世界記録を更新するには、ワンスター専用の速いボムピラを使う必要があったのである。そして、それを実際に行なったのが今回のShake氏の記録となる。

一応補足しておくと、Shake氏は2021年12月11日の段階でこの新ルートを決めており、旧ルートと並ぶ世界記録タイを出していた。単独世界記録を手にしたのが1日後の12月12日となっている。

その後、12月16日には、さらに0.1秒更新した『44.91秒』を出しており、現在はこのタイムが世界記録となっている。

 

番外編. レインボークルーズ お屋敷スター更新に賞金!?

2019年5月にXiah氏が人類で初めてカーペットレスを成功させ、『レインボークルーズ お屋敷スター』のワンスター記録を更新したのは有名だろう。

2021年7月31日。4TL氏により、このXiah氏のワンスター記録の更新に250ドルの賞金が懸けられたのだ。(賞金紹介ページはこちら / SM64サーバ内のログはこちら)

※ワンスター記録にはリアルタイム記録部門とゲーム内タイム部門があるが、本賞金はリアルタイム記録部門の更新に懸けられた。

これに挑戦したのが、2021年のワンスターで大活躍したShake氏である。

以前から本スターに軽く取り組んでいた氏だが、賞金が出たことによりモチベーションが爆発。

氏は、ボム兵バグからワープへ行くまでの部分の最適化を考案したり、最後の部分でカメラのセットアップを編み出したりするなど、更新に向けた準備を始める。

そして、賞金出現からおおよそ1週間後の8月7日。氏は自身初のカーペットレス成功を収め、リアルタイムの世界記録を更新することとなった。

これにより氏は賞金を手にすることになったのだが……。氏曰く「終盤の動きが悪かったのでこの記録では納得できない」、ということで挑戦を続けることに。

挑戦を続けて3日後の8月10日。氏は、1回目の段階で既にコツを掴んでいたのか、3日という短期間で2回目のカーペットレスの成功を収め、今度は納得の行く形で世界記録を塗り替えたのだ。

ワンスター記録に賞金が懸けられるのは珍しいことだが、コミュニティ内では盛り上がったので、今後も賞金が懸けられたら面白いものが見れるかもしれない。

ちなみに、Shake氏はXiah氏・Mikko氏に続き、人類で3番目にカーペットレスをセーブステート無しで決めたことになる。

 

【ルート開拓面】DDD2枚先チャートや新カーペットレスなどの発見

2021年もいくつかのルート開拓が見られた。将来的には実用化されるかもしれないその案達を3つ紹介しよう。

 

1. ウォーターランド2枚先チャート

2021年1月31日、Drogie氏により120枚RTAの新たなチャート(と処理落ち回避)が提案された。そのチャートとは『ウォーターランド(DDD)2枚先チャート』である。

マリオ64では、DDDの潜水艦スターを回収すると、DDDの入口が後ろに引く仕様となっている。入口が後ろに引くと、その分城内移動が増えることになるので、タイムロスとなるのは言うまでもないだろう。

2021year-summary_DDD

ということは、潜水艦スターの回収を可能な限り後に回したほうが良いことになる――これが氏の提案となっている。

具体的には、まず吹き出す水スターと透明帽子スターを回収し、その後に潜水艦スターを回収するという提案だ。

現在の主流はこの2枚を潜水艦スターより後に回収する『DDD2枚後チャート』なのだが、それと比べて城内移動分だけタイム短縮になる。

ここまでの話を聞いて、「誰でも思いつきそうなチャートだけどなあ」と思った人もいるはずだ。実はその通りで、以下の動画を見れば分かるが、2009年以前までは『DDD2枚先チャート』が使われていた。

しかしその後、とある理由があって、2009年末あたりから『DDD2枚後チャート』を使うようになったのだ。(当時の動画がこちら 13分04秒~)

その理由とは、潜水艦による処理落ち問題である。

実機でのマリオ64既プレイの人なら分かると思うが、DDD内で潜水艦が出現している場合、潜水艦エリアで処理落ちがひどく発生する。

『DDD2枚先チャート』を使う場合はその処理落ちと向き合わなければならない一方で、『DDD2枚後チャート』なら向き合わずに済む。そのことから2009年末あたりから『DDD2枚後チャート』を使うようになった。

この問題があるため、Drogie氏は処理落ち回避方法も紹介しており、それも含めたのが今回の提案となっている。

この新チャートを使うと、理論上は処理落ちを含めて1.40秒程度の短縮になるものの、現在はごく一部のプレイヤー(1人or2人レベル)にしか採用していない。

その理由は、処理落ち回避方法が難しくてミスしやすい割に、理論上1.40秒程度の短縮にしかならないため、リスク&リターンが合わないからである。

しかし、今後将来、120枚RTAが煮詰まっていったとしたら、主流となる日が来るかもしれない。

 

2. レインボークルーズ 新カーペットレス

2021年2月16日。RRにて、新たなカーペットレスが見つかった。

カーペットレスというのは、その名の通り、絨毯を使わずにお屋敷スターを回収するルートのことだ。

このルートにはいくつか方法があり、ケツワープ(BLJ)やボム兵バグを利用した方法が有名だが、上記のツイートの通り、グリッチキック2回の方法が新たに見つかったのである。

新カーペットレス発見のきっかけは、2月15日、UwU Princess氏が某Discordサーバにて「壁キック2回で登れた!」と報告したことにある。

当初、その報告は文章でしかなかったため、イタズラ的なものだと思われていたが、少し経った後に氏が実際に成功させた動画も投稿。

この投稿を皮切りに、マリオ64RTAコミュニティのみならず、TASコミュニティまでもがこの新カーペットレスの再現を試み始めたのである。

まず最初、マリオ64RTAコミュニティでは、その1日中、Twitch配信で数多くのチャレンジャーが出現し誰が最初に決めるかで盛り上がっていた。

しかし、何時間経っても誰も決められそうになかったため、いよいよ「動画はフェイクなのではないか」と言われ始める。そんな時にTASコミュニティでこの話題が取り上げられ、TASプレイヤーもチャレンジし始めた。

そして2月16日。FramePerfection氏がTASにて新カーペットレスの再現に成功したのである(上記ツイートの動画)。

原理の解説などは割愛するが、再現されたその方法では、まず超細かい角度調整をした上で三段ジャンプし、グリッチキックを2回決める必要がある。

そこまでは人間でもできた人はいるのだが、その上でマリオを特定の速度になるようにしなければならず、その速度調整ができないとお屋敷の屋根の上でジャンプキックを出すことができないのだ。

※人間でも屋根の上に乗ること自体はできたが、屋根の上でケツ滑り状態からジャンプキックを出すには数フレームのケツ滑りフレームが必要。そのフレームを作るのが人間の操作では不可能に近い。

ということで、最終的に『シビアすぎるので人間には不可能に近いカーペットレス』という結論でこの話題の幕は閉じた。

一応誤解のないように補足しておくと、FramePerfection氏が再現した方法とUwU Princess氏が見つけた方法とでは壁キックの方法が違うようで、UwU Princess氏の方法では再現不可能というのが識者の見解だ。

UwU Princess氏が成功を収めることができた明確な原因は未だに分かっていないが、「UwU Princess氏の使用していたROMに損傷があったのではないか」「セーブステート周りに不具合があったのではないか」などと言われている。

それもあり、マリオ64の歴史としては『UwU Princess氏の投稿をきっかけに、FramePerfection氏が三段壁キックカーペットレスを実現』と刻まれている。

 

3. かいぞくのいりえ 柱左滑り+Frame Walkingルート

2021年7月22日。saksdal氏により、120枚RTAで実用化するための『JRB 柱左滑り+Frame Walkingルート』が考案された。

これは、柱の左側を登った後にFrame Walkingを入れて高度を稼いだら、横に滑って壁を蹴るルートとなっている。

RTAを想定しているため、基本はスティックのくぼみ入力でできるようにしているのも特徴のひとつだ。(解説動画はこちら)

なぜこんなルートが考案されたのか……、少し振り返ってみよう。

実は該当の柱の右側を登って滑る方法は2006年の段階で存在していた。しかしこの方法は、近年軽く調査されたものの、RTAで実用化できる目途は立たなかった。

その理由はシビアな位置調整を求められることにある。この柱を登る方法は、柱に突っ込む時にある程度の位置調整が必要なのだ。

柱の右側を登る場合は泳ぎ中に左に迂回してから柱に突っ込む必要があるため、泳ぎの序盤の段階から位置調整しなければならない。そんなことはRTA中は厳しいので、実用化には程遠かったのである。

続いて、時は進んで2018年9月。circumark氏により該当の柱の左側を登って滑る方法が考案された(動画時間55分11秒~)。これがsaksdal氏の案の初期案に当たる。

この案のメリットは直前まで位置調整が不要なことだ。先で述べた通り、柱の右側を滑る場合は泳ぎの序盤から位置を調整する必要があるが、この案であれば、泳ぎの最後で位置を調整するだけで済む。

これにより、「RTAで実用化されるのではないか」と一瞬思われた。――が、残念ながら、難易度が高い部分が2つあるためにそうはならなかったのである。

難易度が高い部分1つ目は柱を滑った後のジャンプである。横の壁を蹴る角度にするには、柱を滑り切ってからジャンプを出す必要があるが、そこがかなり難しい。

さらに2つ目として、壁を蹴れたとしても、高度が足りなかったり、角度が悪かったりで上の足場に崖掴まりできないことが多いのだ。

以上から、この案もRTAでの実用化はほど遠く、その後2019年2月にKyman氏によって『反転ジャンプを使った方法』も考案されたが、これも難易度的に使い物にならなかった。

この後特に動きは見られず、時は進んで2021年7月。saksdal氏により、今回のルートが考案されることとなった。

歴史を振り返って分かったと思うが、saksdal氏の案の一番大きい点は『Frame Walkingを入れて高度を稼いでいる点』だ。

高度を稼ぐことで柱を十分滑れる余裕ができるので、横の壁を蹴る角度を作る余裕があるし、壁キック後の高度も出しやすくなる。さらに、できる限りスティックのくぼみ入力で完結することで、より安定させやすくなっている。

一応補足しておくと、今までは大砲無しルートをやるとしたらHoriN64コンを使って強引に『Frame Walkingルート』をやるのが一般的だった。

しかし、このルートは柱の下から上までずっとFrame Walkingをしなければならないため、操作的に少し難しいししんどいところがあったのだ。今回のsaksdal氏の案はFrame Walkingをやる量が少しだけなので、そういう面でもRTA的に優れていると言える。

ちなみに、本案を決めると、実際のRTA想定で5秒程度の短縮となる(理論上は7秒程度の短縮)。そのこともあり、発案後、120枚RTA最上位プレイヤーであるSimply氏の目に留まり、一旦は採用される運びとなった。その当時に以下の動画を投稿している。

しかし、本案を使ってもまだ難易度がそこそこ高いので、現状(2021年)は遅いペースの時などに使うぐらいのものとなっているようだ。ただ、あと数年後には主流化している可能性が高いと考えられる。

 

【ルート実用面】新たな壁抜け2つと細かいアプローチの進化

2021年はタイム短縮に繋がる新たな壁抜けが2つ見つかり即座に取り入れられた。また、細かいアプローチなどが進化したので、その代表例を3つ紹介しよう。

 

1. ウォーターランド Chip Clip

2021年10月3日、ChipGroove氏によりDDDの序盤の壁抜けが見つかった。詳細は『マリオ64界に激震! 1.9秒も短縮できる革命的な壁抜けが2021年になって見つかる!』を読んでほしい。

この壁抜けはRTAだけでなくTASでも使えるものだったので、マリオ64コミュニティ全体で大いに盛り上がった。それぐらいインパクトの大きい発見だったのである。

ちなみに、壁抜け時にパンチを入れる方法と入れない方法の2種類があり、前者は0.9秒程度の短縮、後者は1.9秒程度の短縮となっている。

ただ、後者は難易度が高すぎてRTAで使える代物ではないため、ワンスターでは使われているもののRTAではパンチを入れる方法が主流化している。

 

2. やみにとけるどうくつ100赤 Salt Clip

2021年11月11日、Salt&Ginger氏によりHMC100赤のRTA用の新たな壁抜けが見つかった。この壁抜けを使うと2秒程度短縮できる。

「ぱっと見の難易度は高く見えるが、2秒程度の短縮は大きい」――そのことから、発見されてからすぐに一部のプレイヤーがこの壁抜けにチャレンジ。

そして、マリオ視点を使ったカメラのセットアップが考案されるに至った。

しかし、残念ながら、このセットアップを用いても難易度は相変わらず高いままだった(RTAで使うか使わないかのぎりぎりの難易度)。

それを理由に、発見後は、120枚RTAの最上位プレイヤーのみが採用する形となった。

※なお、執筆時点(2022年)では、ジュゲム視点を使ったセットアップも考案されており、そちらを使っているプレイヤーもいる。

 

3. ファイアバブルランドドンケツたい 右ルート(幅跳び改良案)

2021年1月にNebula氏によってLLLドンケツたいの右ルートの改良案が考案された。

改良部分は動画時間9秒からで、ぐらぐら足場から幅跳びを出した後、そのまま連続で幅跳びを出して移動する部分が改良となる。

今まではここで二段ダイブを出していたが、それと比べて気持ち速く・より安定しやすいのが特徴だ(改良前の方法はこちらで紹介している)。

ルート自体の話をすると、本スターは最初に正面へ進んでいくルートが主流だが、右から進んでいったほうがケツを燃やさずに済むため速い。それを右ルートと呼んでおり、昔はワンスターで使われていた。

このルートはRTAで使えるか使えないかのぎりぎりの難易度であることから、過去にRTA中に魅せプレイに近い形で見せる人はいたが、主流にはならなかった。

しかし、このNebula氏の改良案や全体的にプレイヤーの腕前が上がったことから、120枚RTA最上位プレイヤーであるLiam氏を中心に採用されるようになったのである。

現在はまだオプションの立ち位置にいるルートだが、今後主流化することは間違いないと考えている。

 

4. あっちっちさばく100シークレット 金網吸い付きアプローチ

2021年3月にikori氏によってSSL100シークレットの最後の部分の代替アプローチが考案された。

今までは下へ降りた後ジャンプダイブ復帰を使っていたが、この案では、幅跳びを使って金網の柵に吸い付くのを狙っている。

このアプローチは、より速いタイムを安定させることができるだけでなく、ミスしてもロスにならないというおいしいメリットがある。

具体的には、幅跳びで柵に吸い付けば成功になるわけだが、仮に柵に吸い付かなかったとしても今までと同じアプローチにすれば良いのでロスにはならないのだ。

つまり、やり得なアプローチなのである。

それもあって、このアプローチは徐々に浸透していき、現在は120枚RTAの主流アプローチとして使われるようになっている。

 

5. おほりのとうめいスイッチ赤 ダイブ復帰+三段アプローチ

2021年頭頃から、おほりのとうめいスイッチ赤にて、ダイブ復帰+三段アプローチが主流のひとつとなった。以下の比較動画の最初の左側のルートである。

本スターのRTA最速ルートは、赤コイン4枚目後に坂引っかけをし最後にリフトの上側を通る『坂引っかけ+上くぐりルート』だが、坂引っかけの部分がミスしやすく、ミスすると4.7秒程度のロスになる。

その解決策として、2019年4月にcircumark氏により『ダイブ復帰ルート』が考案された。

さらに、その後2019年6月にsaksdal氏Siglemic氏によってRTA向けに改良されたが、タイム的に遅いこともありその時は中級者用のルートとして扱われる結果となった。

しかし、2020年5月12日にmarlene氏により三段ダイブを使う方法が考案され、『坂引っかけ+下くぐりルート』と同じぐらいのタイムを出せることが判明する。

それからしばらくは隠れた良案扱いだったが、2021年になり当時世界記録を狙っていたバトラ氏が採用。最終的に上級者の主流ルートのひとつに昇格したのだ。

▼ バトラ氏が当時世界記録を更新した動画では、ダイブ復帰+三段アプローチを使っていることが分かる(41分49秒~)。

メリットやデメリットは『バトラ氏が悲願の世界記録更新! 執念とも言うべきその勝因を説く!』で紹介しているので割愛するが、要するにタイムは実際のRTAベースで1秒程度遅いものの、それ以上にメリットがあるというアプローチになっている。

今後も採用する人が増えていくことだろう。

 

【エンタメ面】10万人もの視聴者を釘付けにした目隠し70枚RTA

2021年内で世間から最も注目を集めたのはBubzia氏による『目隠し70枚RTA』だ。

このカテゴリはその名の通り、目を隠した状態で70枚RTAをするというもので、曲芸のようなすごさがあることから注目が集まりやすいという特徴がある。

氏が最初に目隠し70枚RTAを披露したイベントが2021年7月11日の『SGDQ2021』である。この時のリアルタイム視聴者数は最大10.9万にも登り、大きな盛り上がりを見せた。

その後、氏は7月末に開催された『ESASummer2021』でも同カテゴリを披露。

さらに、少し期間を空けて2021年12月28日。日本最大規模のRTAイベント『RTA in Japan』でも同カテゴリを披露し、日本人の間でも話題となったのだ。

その時のリアルタイム視聴者数もなんと最大10.1万。その熱狂さゆえに、SNSでトレンド入りしたり、Yahoo!ニュースのトップに掲載されたりする等、RTAを詳しく知らない層にまで知られる結果となった。

Yahoo!ニュース(魚拓): マリオ64 目隠しで驚異のクリア

具体的なイベントの様子はここでは割愛するが、アーカイブは残っているので、興味の湧いた人はぜひその目ですごさを感じてほしい。

 

【イベント面】目が離せない熱い戦いが繰り広げられた

2021年のイベントは、感染病の影響もあり全てのイベントがオンラインでの開催だった。そうであるにもかかわらず、いくつものイベントで盛り上がりを見せたのだ。

実際に開催された代表的なイベント一覧は『視聴者向けまとめ』で見ることができる。今回はそのうち印象に残ったイベントを3つ紹介しよう。

なお、本紹介ではネタバレ(結果紹介)も含むので、その点は留意してほしい。

 

1. ワンステージRTAトーナメント

5月4~8日で開催された日本のイベント『RTA WEEK』にて催されたのが『ワンステージRTAトーナメント』だ。

『ワンステージRTAを1vs1で勝負し、先に2本取ったほうが勝利』というルールであり、実際に走るステージは最初はランダム抽選・以降は敗者が指定する形式となっている。

予選と本戦が分かれており、8名のプレイヤーが本戦に進み熱い戦いを繰り広げた。

特に熱いプレイヤーだったのは、2年ぶりにマリオ64RTAに復活し国内外を驚かせたikori氏だろう。

氏は上位プレイヤーのひとりで、2019年4月に120枚RTAにて『1時間40分44秒』という自己ベストを出した後しばらくして姿を消した。「もう戻ってこないのではないか」と思われていたが、しかし、2022年に復活を遂げたのだ。

そんな氏が参加した本トーナメント。氏以外にも上位プレイヤーが参加しており、数秒を争うぎりぎりの戦いが何度かあったことからかなり白熱したのである。

まず最初の1試合目(動画時間21分00秒~)でいきなり注目カードが来る。『ほころび氏 vs ikori氏』という上位プレイヤー同士のカードだ。

『ちびでかアイランド』と『スノーマンズランド』での戦いだったが、100枚スターでの乱数(コインの散らばり)が勝敗の決め手だったと言っても過言ではないぐらいにぎりぎりの勝負となり、結果ikori氏が勝利を収めた。

その後も熱い試合が行われていき、最後まで勝ち進んだのは『ikori氏 vs かがみ氏』(動画時間3時間20分00秒~)。

この試合も面白い試合で、最初抽選で『さむいさむいマウンテン』が選ばれたのだが……。まさかの2人とも同タイム(4分58秒)を出してしまい、仕切り直しに。

その後もハラハラさせられるような勝負が繰り広げられ、最終的にikori氏が優勝する運びとなった。

マリオ64の日本のイベントはアーカイブが残らないことがほとんどだが、本トーナメントはアーカイブが残っているので、ぜひ視聴してマリオ64RTAの日本勢の一端を感じてほしい。

 

2. ESA Break the Record Live (70枚RTA)

10月29~31日の3日間で開催されたのが『ESA Break the Record Live』という海外の賞金付きイベントだ。

最上位プレイヤー7名が3日間での期間内自己ベストを競う形式のイベントとなっている。

10月頭あたりから最上位プレイヤー達が70枚RTAの自己ベストを狙い始めていたことから、70枚RTAが最もホットなタイミングで開催されたこのイベント。

『【世界記録面】70枚RTA』で取り上げたが、特に絶好調だったのはWeegee氏だ。

氏はイベントが開催されるまでの間で何度も世界記録ペースを出しており、「もしかしたらイベントで世界記録達成が見れるのでは」と多くの視聴者から期待されていた。※当時の世界記録は『46分59秒』。

それに応えるかのようにイベント2日目。氏は世界記録ペースで70枚RTAの終盤(スター58枚目)まで来て、3階のステージを迎える。

3階の最初のステージ『レインボークルーズ』ではミスはあったものの、世界記録マイナス9秒のペースで駆け抜け、そして最終ステージ『チックタックロック』に入場。

プレイヤーを何度も泣かせてきた100枚スターを難なく突破したのだが……、スター67枚目にて『右ルート』で痛恨の落下ミス。

その後も細かいミスやクッパ投げミスが続き――残念ながら世界記録は更新できず、『47分27分』でゴールする結果となった。

しかし、その後も何度か世界記録更新のチャンスがあり、そのたびに視聴者が湧き上がるという非常に盛り上がったイベントだったのだ。

本イベントもアーカイブが残っているので、ぜひチャット欄などの様子から盛り上がり具合を感じてほしい。

 

3. GSA Sleep 16 Star Live Time Attack

11月27日~12月5日の間で開催されたのが『GSA Sleep 16 Star Live Time Attack』という海外の賞金付きイベントだ。

こちらも上位プレイヤーが期間内自己ベストを競う形式のイベントだが、予選と本戦が分かれていて、予選から7名のプレイヤーが本戦へ勝ち進むシステムとなっていた。

最後の2日間の本戦に勝ち進んだのは、『【世界記録面】16枚RTA』で挙げたWeegee氏・GreenSuigi氏・Slipperynip氏・KANNO氏達だ。

この時の世界記録はWeegee氏の『14分53秒』だったが、そこからプラス4秒以内に上記4名のプレイヤーがいたので、本戦が大混戦となったのは言うまでもなく……。

――本戦の終盤に、2021年のベストシーン候補として誰もが挙げるぐらいの一幕が生まれたのである。

まず本戦1日目の結果だが、GreenSuigi氏が『14分59秒』を出して終わりを迎えた。

そして運命の本戦2日目がスタート。5時間経ったあたりでWeegee氏が『14分57秒』を出して1位に躍り出る。

このタイムは当時の世界記録からプラス4秒のタイムなので、このままWeegee氏が1位のまま終わるかと思われた――そんな状態からKANNO氏の一幕が始まったのだ。

ベストシーンとも言えるその走りはイベントのアーカイブ(6時間16分~)KANNO氏のアーカイブで見ることができる。

KANNO氏は細かいミスはありながらも順調にスターを11枚回収し、ついに『やみにとけるどうくつ』に入場。

この辺から、イベント配信では氏がメインスクリーンに映し出されるようになり、氏の走りに注目が集まり始める。

氏はその後、リセットポイントとなる『ウォーターランド Chip Clip(壁抜け)』を決め、さらに『ほのおのうみのクッパ Ultimateルート』を難なく決めた。

自己ベストマイナス3.5秒で入場した『てんくうのたたかい!』では、氏が得意としているTASLJを決めたが、緊張があったのか、その後細かいミスが続く。

それでも大きいミス無くラストクッパを投げ終え……。なんと、イベント内で自己ベストを2秒弱も更新して、『14分56秒22』という記録で1位を奪ったのだ。

これを見ていた解説実況やチャット欄は大盛り上がりで、『KING KANNO』という以下のクリップ(ダイジェスト)まで作られる結果となった。

この後、残り時間も少なかったことから、KANNO氏が1位のまま終わりを迎えた。以上が本イベントの一部始終となっている。

本イベントは、2021年末の16枚RTAの状態を直で感じることのできる貴重なものだったので、まだ視聴していない方はぜひ視聴してみてほしい。

 

むすび

今回は、2021年に起こった出来事を7つの側面にまとめてみた。覚書のつもりで書いたが、楽しんでいただけたのであれば幸いだ。