【マリオ64 RTA】WDW 『エレベータ抜け』をRTAで実現するための課題と解決
2020年5月20日。私はみずびたシティーの『エレベータ抜け』のセットアップの動画をアップした。
このセットアップは「RTAでエレベータ抜けを実現できるようにする」という、夢のようなセットアップとなっている。
今回は、このセットアップを編み出した時に行なった考察を、分かりやすいように整理して紹介する。
(本当は考察した順に紹介したかったのだが、考察した順に紹介するとジャングルのような文章になってしまうのでやめることにした。)
RTA向けのエレベータ抜けはロマン
考察を読む上で、「そもそもエレベータ抜けが何なのか」を知っている必要があるので、軽く紹介する。
エレベータ抜けとは、一言で述べると『エレベータを起動せずに無理やりスターを取る技』である。
金網の特定の位置で壁キックすると、金網にめり込むことができ、板に頭をぶつけることなく上に上がれるのだ。
これをノンストップで決めた場合、一番速いRTAルートと比べて9秒も速くなる。
- エレベータスターのRTAルート: 17.16 (70枚idealrun)
- エレベータ抜けルート: 8.03 (ワンスター用参考TAS)
エレベータ抜けはもともとワンスターRTAでは使われていたのだが、超運が良いと決まるぐらいのレベルなので、「RTAでは使えないだろう」と思う人が大半だった。――つまり、『レインボークルーズ カーペットレス』と同じく、ロマン技だったのだ。
しかし、2020年に入り、私の頭の中に「セットアップ込みでもタイム短縮できるのでは」という考えが生まれ、セットアップを編み出すに至ったのである。
エレベータ抜けをRTAで実現するための課題
様々な考察を経て、エレベータ抜けをRTAで実現するためには、2つの課題があることが分かった。以下でそれぞれの課題を解説する。
課題1. エレベータ抜け時のスティック入力を簡単にすること
最後の壁キック後、金網にめり込んでいる間のスティック入力は、1フレーム単位で正確である必要がある。
1フレームでもスティック入力が違った場合、エレベータの板に頭をぶつけてしまったり、金網の右に抜けてしまう(以下の画像)ことがあるからだ。
(スティック入力はジャスト入力じゃなくても問題ないが、くぼみとくぼみの間の4分の1程度には正確である必要がある。)
この課題を解決する方法として『マリオの壁キック時の角度を固定化することで、エレベータ抜けをくぼみ入力で実現する』という発想に至った。別のセクションで具体的に話そう。
課題2. マリオの高さ(Y座標)をできる限り固定化すること
エレベータ抜けを成功させるには、最後の壁キック時のマリオの高さ(Y座標)が決められた高さでなければならない。
具体的には、金網の手前側を壁キックする場合、『Y座標=3007.xx~3011.xx』である。(金網の奥側を壁キックする場合はこの数値ではない。)
ゲーム内で言うと、エレベータから見て、1つ下の黒い模様の若干下となる。
実はエレベータの右に抜けるだけであれば、『Y座標=3022付近, 2995付近, 2983付近』でも可能なのだが……。金網にめり込めることができるのは『Y座標=3007.xx~3011.xx』しかないのだ。
で、このY座標を作り出すための問題点は、エレベータ抜けをするまでに6回壁キックすることにある。
一般的に壁キックを出せる猶予は5フレームあるのだが、この5フレーム中どのフレームで蹴ったかでマリオの高さが変わる。また、壁キックで登っている最中のスティック入力もマリオの高さに影響する。
つまり、完璧にパターン化するには、『スティック入力・全ての壁キックのフレーム』を固定化しなければならないのである。
言うまでもないが、RTAではこんなものは不可能に近い。が、しかし、「以下の2点だけは固定化できそう」だと思い、その方法を考えてみることにした。
- スティック入力: くぼみ入力にすること
- 最初の壁キック: スティック固定でできるアプローチにすること
課題1. エレベータ抜け時のスティック入力を簡単にすること
方針
解決手段:『マリオの壁キック時の角度を固定化することで、エレベータ抜けをくぼみ入力で実現する』
この手段を実現するには、『エレベータ抜けをくぼみ入力でできる角度を見つける → その角度になるセットアップを編み出す』というロジックが無難だ。
ただ、考察中に以下の2点に気づいた私は、とりあえず『エレベータエリアの3隅を使ったカメラの固定化』から調べることにした。
- 誰もが100%再現できるセットアップを作るには、『カメラの固定化』と『上下左右のくぼみ入力』が必要。
- (実際にプレイしてみて)現実的に『カメラの固定化』ができる場所はエレベータエリアの3隅しかないのではないか?
使えそうな隅は右上のみという結果に
エレベータエリアの3隅とは、以下の赤丸のスポットとなる。
これらスポットにマリオをはめ、C左右を適当に押して良いカメラが作れる場所を探してみた。
まず左上隅だが、ここで良いカメラを作れても、エレベータ抜けができるスポット(右側)まで行くことは難しいので却下。
続いて、右下隅を見てみたところ、使えそうなカメラは以下の2種類あった。
エレベータ抜けを実現するには、壁キック時のマリオの角度を、できる限り金網と並行になるようにしなければならない。その観点から『前者は若干外に向いていてダメ』『後者は若干内に向いていてダメ』と判断し、最終的に右下隅もダメという結論に至った。
ということで、残るは右上隅になる。右上隅で使えそうなカメラは以下の2種類あった。前者が隅に進んでからC右を押したカメラ、後者がC左を押したカメラとなる。
どちらのカメラも『金網に並行』という点では問題なさそうだ。実際に、スティック真上を維持しマリオを歩かせてみたところ、
前者(C右)のマリオの角度: 48116
後者(C左)のマリオの角度: 48501
という固定の角度になったので、「マリオの角度を固定化する」という点でも合格だと判断。
以上から、『右上隅のC右カメラ』『右上隅のC左カメラ』の2つを試すことにしたのである。
右上隅のC右カメラでもできなくはなかったが…
まず、右上隅のC右カメラから。適当にY座標を調整し、最後の壁キックの入力を色々試したところ、以下の入力に落ち着いた。
(1) 壁キック時は右下くぼみ。(厳密に右下じゃなくても問題なし)
(2) 右下くぼみのAボタンは2フレーム。
(3) 3フレーム目以降は、真下くぼみより少し左を維持。(ここのスティックは厳密じゃないとダメ)
Y座標がずれていても、フレーム単位で正確に上記の入力をすれば、エレベータ抜けができることが分かった。
(3)の入力はくぼみ入力ではないものの、『入力を意識すればかろうじてできる』ぐらいのものになっている。
右上隅のC左カメラだとくぼみ入力でできることが判明!
右上隅のC右カメラが使えるかどうかは一旦保留し、続いて、右上隅のC左のカメラを試してみる。
(1) 壁キック時は右下くぼみ。(厳密に右下じゃなくても問題なし)
(2) 右下くぼみのAボタンは2フレーム。
(3) 3フレーム目以降は、真下くぼみを維持。
このカメラにおいても、Y座標がずれていても、フレーム単位で正確に上記入力をすれば、エレベータ抜けができることが分かった。
C左のカメラにおいてもフレーム単位で正確な入力が必要だが、くぼみで再現できる分、C右のカメラよりも断然良いと言えるのではないだろうか。
以上の過程から、「課題1を解決する具体的な方法はC左のカメラを使ったセットアップ」という結論に至った。
課題2. マリオの高さ(Y座標)をできる限り固定化すること
方針
先で述べたように、壁キックを6回もするので、この課題を100%解決する方法を編み出すのは不可能である(と思う)。しかし、『最初の壁キックまでの動きを固定化し、壁キック中はくぼみ入力にすること』で多少はましになると考えた。
色々試したところ、あるひとつの方法にたどり着いたので、それを紹介しよう。
三段ジャンプ法
私が見つけた方法は以下だ。
(1) カメラを調整した後、スティック真上を維持する。
(2) 真上のまま、JKで壁を蹴る。
(3) そのままの勢いで二段ジャンプをAボタン最大で出す。
(4) そのまま三段ジャンプを出して、壁キック。
(5) 壁キック中は『真上→真下→真上→真下→左上→右下』の順にスティックを倒す。
以上の入力にて、全ての壁キックを『最速+1フレーム』にするとエレベータ抜けできることが分かった。全て『最速+1フレーム』にするのを安定させるのは難しいとは思うが、目安ができたので良かったと思う。
まとめ
このセットアップにおけるメリット・デメリットを以下にまとめる。結論を先に述べると、『デメリットが大きすぎて改良が必要』というのが現状となっている。
■メリット
- セットアップを使っても11秒程度なので、現行ルート(17.16秒)よりも6秒速くなる。
- エレベータ内に入れず、右に抜けてしまった場合でも19秒台が出る。
- つまり、金網を抜けさえすれば、それなりのタイムが出せる。
■デメリット
- エレベータ抜けするためのマリオの高さ(Y座標)の調整が安定しない。
- エレベータ抜け時の入力がフレーム単位の入力なので安定しない。
むすび
実は最初からエレベータ右抜けを狙った動画も作っており、タイムは16.03秒となっている。
現行ルートの理想値は17.16秒なので、つまりは、これでも同等程度のタイムを出すことができるわけだ。
今回の調査にて、エレベータ右抜けは結構成功することが分かったので、
- 『今回編み出したセットアップよりも速いセットアップ』且つ
- 『エレベータ右抜けを狙えるセットアップ』
を編み出せば、RTAで使われてもおかしくないのではないだろうか。
今度時間がある時にまた調べようとは思っているが、この記事を読んで興味を持った方はぜひ自分の手で調べてみてほしい。